ここ最近、新聞報道でも「●社が●%賃上げ」といった言葉をよく目にしますが、物価上昇に追いついていない現状があります。直近では全国のスーパーのコメの平均価格が 5 kgあたり約 4,000円と前年比で 2 倍にもなっているとのことです。
昨年の令和 6 年度税制改正では、「物価高に負けない賃上げを実現できるよう賃上げ税制を強化する。」ということで、特に賃上げが進まない中小企業をバックアップする趣旨で改正が行われました。
この制度は税額控除であるため、納付すべき法人税額を減らすことが可能です。ただし、赤字企業のように納付すべき法人税額がない場合には、この制度の恩恵を受けることができません。現状の黒字企業は全体の 36.0%(約 114 万社)です。
本制度の適用対象は従業員(パート、アルバイトを含みます。)のみとされており、役員や役員の親族は対象外となります。
令和 6 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度から制度内容が変更となり、1 年決算法人を前提とするとタイミングとしては、令和 7 年 3 月期の 3 月決算法人から変わるため、留意が必要です。
(1) 必須要件
雇用者全体の給与が前期と比較して一定割合増加していること
1 前期から 1.5%以上増加
→増加額の 15%を税額控除
2 前期から 2.5%以上増加
→増加額の 30%を税額控除
(2) 上乗せ要件
1 教育訓練費が前期比 5%以上増加、かつ、当期の雇用者全体の給与の 0.05%以上
→税額控除率に 10%加算
2 女性活躍や子育て支援に積極的な企業(くるみん又はえるぼし認定企業)
→税額控除率に 5%加算
上記すべての要件を満たすことで最大で増加額の 45%の税額控除を受けることが可能ですが、納付すべき法人税額の 20%が上限となります。
この制度は赤字の場合には賃上げしても税の軽減効果がなかったため、賃上げを実施した年度に控除できなかった金額について、翌期以降 5 年間の繰り越しが認められることとなりました。
繰り越した金額が使えるのは、5 年以内に黒字になって法人税が発生した場合に限ります。要件としては、繰越税額控除をする 5 年以内の事業年度においても給与総額が前期を超えること、所定の別表を申告書に添付することが必要です。
なお、この制度は控除できなかった事業年度末において中小企業である必要がありますが、繰越控除を行う事業年度において中小企業に該当することは要件とされていません。
税額控除の 5 年繰越というのは前例のない措置と言えます。しかし、そもそも赤字の会社が黒字になったとしても、まずは過去の赤字を充当し、充当してもなお所得(黒字)が生じ、納税が生ずることを前提としているため、実際にこの措置の恩恵が受けられる中小企業がどのぐらいあるのか、注視したいと思います。
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