旅行最大手のJTBが、資本金を現在の 23 億400 万円から 1 億円に減資することが発表されました。グループ全体の連結売上高は約 1 兆 2,885億円(2020 年 3 月期)、従業員数は約 27,000 人、言わずと知れた大企業です。
その大企業が資本金を 1 億円にすることで、税制上は「中小企業」という扱いになります。
コロナの影響を受け、最近では他にもスカイマーク、毎日新聞社、JOLEDなどが同様に資本金を 1 億円にすることを発表しました。
では、資本金を 1 億円にすることで、税制上、どのようなメリットがあるのでしょうか?
税制上は、資本金が 1 億円以下か 1 億円超か、によって取扱いが異なり、1 億円以下の法人には例えば、次の優遇措置が用意されています。
法人税の税率は原則として 23.2%です。ただし、中小企業は年800万円以下の所得について15%の軽減税率が適用されます。
赤字が出た場合、欠損金として翌期以降繰り越すことができ、翌期以降の所得(制限なし)と相殺することで税負担を圧縮することが可能です。
なお、大企業も翌期以降に繰り越すことができますが、所得の 50%が限度となります。
法人が支出した接待交際費は税制上、原則として、全額損金の額には算入されません。ただし、中小企業は、①年 800 万円以下の全額損金算入、②接待飲食費の 50%損金算入、の選択適用が認められています。
なお、大企業も資本金 100 億円以下であれば、接待飲食費の 50%損金算入が認められています。
法人税は企業の儲けである所得をベースに課されますが、地方税である法人事業税は所得をベースにしたものとは別に、「外形標準課税」と呼ばれる仕組みを採用しています。
これは、事業所の賃料や人件費、資本金等などの「外観(企業規模)」から客観的に判断できる基準をベースに課税する仕組みです。赤字であっても一定程度の税負担を求めています。
ただし、資本金 1 億円以下の中小企業は、外形標準課税の適用はありません。
2015 年にシャープが同じように、1,200 億円以上ある資本金を 1 億円に減資しようと一時発表したことがありました。しかし、大企業による異例の減資に批判が集まり、即座に撤回しました。その後、2017 年度税制改正において、資本金 1 億円以下であっても、過去 3 年平均の所得が 15 億円超の企業は上記 2.①法人税の軽減税率、③交際費課税の特例が適用されないこととなりました。
今回の大企業による減資を受けて、税制上の「中小企業」のあり方について、議論が再燃するかもしれません。
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