新聞記事で「銀行の自己資本に税金の前払いが組み込まれていて、自己資本をかさ上げしている」と書かれています。この意味を説明いたします。
会社の財産の状態は貸借対照表に表されます。貸借対照表の左側が現預金や貸付金、土地建物などのプラスの財産で、右側が借入金などのマイナスの財産です。自己資本とはこのプラスの財産とマイナスの財産との差額を言います。
プラスの財産 (現預金) (貸付金) (土地など) |
マイナスの財産 (借入金など) |
自己資本 |
会社にとっては、当然マイナスの財産よりプラスの財産が多い方が良いことになります。つまり両者の差額である自己資本が大きい会社は良い会社なのです。
したがって、銀行の健全性を測る尺度として自己資本が注目されるのです。
銀行は融資先の会社から返済をしてもらえない不良債権を償却しています。不良債権を償却するとは、銀行が会社に貸付けている融資金を「もうこれは回収できないから、銀行の損失としてしまおう」ということで、銀行の損失とすることです。
すると銀行の損失は増え、したがって利益も税金も少なくなるはずです。
ところが、税務署は銀行が単に「もう銀行の損失にしてしまおう」ということだけでは、税金計算上、損失として認めてくれないのです。税務署は「実際に融資先の会社が倒産しなければ損失と認めない」としているのです。
例をあげて説明いたします。
銀行の決算で当初の利益が100あるとします。そして不良債権を40償却しました。
銀行の最終利益は当初利益100から不良債権の償却40を引いた60となります。税率40%として税金は最終利益60に40%をかけた24となります。
税務署は不良債権の償却40を税金計算上損失と認めませんので、税金は当初利益の100に税率40%をかけた40となります。
銀行は税務署が計算する税金を実際には支払いますので、40の税金を払います。
そして、この支払った40の税金と銀行が計算した税金24の差額16を銀行は「税金の前払いである」ということで、プラスの財産に含めて会計処理をしているのです。
その結果、マイナスの財産はそのままでプラスの財産が増えますから、自己資本も自動的に税金の前払い分だけ増えることになるのです。
プラスの財産 (現預金) (貸付金) (土地など) |
マイナスの財産 (借入金など) |
自己資本 | |
税金の前払い | 自己資本のかさ上げ |
無断転用・転載を禁止します。