会計学の話 その2
第076_1号 2000年8月
1.はじめに
商売で一番大事なのが売上です。
商品やサービスを提供して、その対価としての金銭を受領することが売上です。企業はこの売上で得た金銭を商品の仕入や事務所の家賃、人件費などの支払に充ててその残りを利益とするのです。
この大事な売上高の計上を会計学的に考えてみましょう。
2.実現主義(販売基準)
この原則も会計学の大原則です。
非常に堅苦しい名前ですが、売上の計上時期を考えるに当たっての大原則です。この原則による売上計上の条件は次の2点です。
- ① 商品またはサービスが提供されていること
- ② その確定した対価を現金等価で受け取ること
この2点を満たしたときが売上の計上時期です。
3.「商品またはサービスが提供されていること」って?
- ① 商品の提供
- 商品が提供されるということは、商品がお客様に渡されたということです。店先で手渡しすればその日が商品の提供日です。
しかし、通常は「出荷(発送)」をもって商品の提供と解釈します(専門用語で出荷基準と言います)。
- ② サービスの提供
- サービスが提供されるということは、役務提供が完了した時です。
床屋さんのサービス提供は、頭を洗って、顔を剃って、髪の毛を切って、ドライヤーで整髪し終わってはじめてサービスの提供が完結するのです。
ひげを剃っただけでは役務提供は完了していません。
4.「確定した対価を現金等価物で受け取ること」って
- ① 確定した対価
- 商品を出荷してもその金額が確定してなくては売上は計上できません。
しかし、実務上は概算額でも決まっていれば、商品が出荷されていれば(サービスの提供が完了していれば)その概算額で取り敢えず売上計上します。
- ② 現金等価物で受け取る
- 商品を出荷しても現金が一ヶ月後に入金される条件で、入金日まで売上の計上を待つ訳にはいきません
現金等価物とは現金の他に売掛債権も含まれます。
つまり、商品を出荷した時点でその商品代金の請求権(売掛債権)が発生する場合は、その時点で現金等価物を受け取った事となります。
5.まとめ
決算日直前で売上を確保するために営業マンが得意先の倉庫に押し込み販売をしても、得意先がその商品の入荷処理をしなければ、その時点では商品代金の請求権はなく、売上は計上できません。
また、前金で商品代金をもらっても商品の出荷がなければ入金時点では売上を計上することはできません。
「売上をいつ計上したら良いのか」を検討するときには、ここで説明した実現主義(販売基準)の二つの条件を思い浮かべてください。
私たち会計の専門家も、売上の計上時期を判断する場合には、この二つの条件を満たしているか否かで判断しています。
アトラス総合事務所 公認会計士・税理士 井上 修