「管理職には残業代を支払わなくてもよい」といった認識を持っている社長が多くいます。実は、これには大きな落とし穴があるのです。「課長や係長も管理職なのだから残業代を支払わない」といった扱いが、後で大変なことになることがあります。
残業代を支払わなくてもよいのは、「管理の地位にある者」(以下、「管理者」といいます)です。この「管理者」とは、労働条件などの労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、勤務時間や勤務日について自分の裁量により決めることができると認められる従業員をいいます。また、業務について、一般の従業員と比べて大きな権限と重い責任があるかどうかも判断基準となります。
このように、より経営者に近い従業員が管理者として認められることになります。「部長」や「課長」イコール「管理者」ではないのです。
残業代を支払わなくてもよい管理者であるかどうかの判断では、賃金額も基準の一つとなります。管理者は、経営者と一体となり業務を行い、その業務の遂行に大きな権限と重い責任をもっていますので、当然、給与や賞与は一般の従業員よりも多くなるはずです。
例えば、「管理職手当1万円」が支払われている従業員がいるとします。「管理職手当1万円」は、どう見ても「大きな権限や重い責任」の対価であるとは思えません。
したがって、この従業員は管理者とは認められない可能性が高くなります。
また、一般の従業員として働いていたときにもらっていた残業代よりも、課長(管理職)になってもらうようになった「管理職手当」の方が低くなってしまうようなケースでも、この課長は「管理者」とは認められない可能性が高くなります。
管理者には労働時間に関する法律上の規制が及びません。従って、残業代を支払う必要がなくなります。しかし、ここで気をつけなければならないのが深夜業についてです。午後10時から午前5時までの時間帯に働いた従業員には、通常賃金の2割5分増の残業代を支払わなければなりません。管理者に支払わなくてもよいのは、時間外労働や休日労働の残業代だけです。従って、深夜業に対する残業代は一般の従業員と同じように、必ず支払わなければなりません。
また、有給休暇についても一般の従業員と同じように与えなければならないので注意が必要です。
社内で管理職と呼ばれる従業員に、一律して残業代を支払わないでいると、突然、管理職の一人から残業代を請求されることがあります。こうなると、残業代を2年間に遡り支払わなければならない事態が起こりえます。上記のような基準に則り、「管理者」に該当しない従業員には、普段から適正な額の残業代を支払わなければなりません。
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