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隠れたる債務

第047_2号 1997年12月

1.会社の保証債務

山一証券の事件では、簿外債務というのが話題になりました。会社の帳簿に計上している債務以外に、莫大な債務が存在していたのです。

これは、企業の虚偽の内容開示ということで、違法性が問われるものですが、違法とはならないまでも、会社の決算書に示されない、いわば隠れたる債務というのがあります。それが保証債務なのです。

保証債務は、簡単に言えば、主たる債務者の債務を保証する契約をして保証人になることで負担する義務のことです。主たる債務者が問題なく返済すれば保証人は何も債務を負うことはありませんが、主たる債務者が万一返済ができないということになれば、保証人が代わって債務の弁済義務を負うことになります。

会社でも保証人になれば同じことですが、その保証債務は、会社の貸借対照表のどこにも計上されません。ただし、資本金一億円超の会社は、商法により貸借対照表の注記に保証債務の記載を義務付けています。資本金一億円以下の会社は、注記を省略できますので、この場合には、貸借対照表に表れない隠れたる債務となります。たとえ適法な決算書でもそれを見ただけでは財務状況の判断は万全とは言えないようです。

2.個人の保証債務

「保証人に絶対になるな」とは、よくいわれることです。実際、保証人になるには、自分が代わって借金の返済をする覚悟がなければなりません。

しかし、自分がいくら保証人にならなくとも、自分の親が誰かの保証人になっている場合、それは子供が相続しなければならないものでしょうか。民法では、ある人(被相続人)が死亡した場合に、その人に属していた一切の財産上の権利及び義務をその人の相続人が承継すると定められていますので、保証債務も当然に相続されることになります。

相続時に、相続財産よりも相続する債務が大きいとわかっていれば、相続を放棄するなり、限定承認するなりできますが、将来発生するかどうか不明の弁済義務ですから判断が難しいところです。

また、民法上保証債務は相続しますが、では、税法上相続税の計算において、普通の借入金と同じように債務控除してくれるかというと、被相続人自身の債務ではないということで債務控除できないのです。ですから、相続において相続税を収めた後、保証債務が発生して弁済したということになれば、ダブルパンチとなります。 なお、身元保証人になる身元保証債務は一身専属的義務ということで、保証人の死亡により、消滅して、相続の対象にはなりません。

いずれにしても、保証人になるには、自分のことだけでなく、相続人たる子供のことも考える必要がありそうです。

また、今のこのような複雑な世の中、あまり、疑心暗鬼になるのもいやですが、何事も表に現れることだけでなく、その裏に何がひそんでいるかを、見極める心構えをもたざるをえない状況になっているようです。


税金ワンポイント(生計を一にするとは?)

「自己と生計を一にする配偶者その他親族」という文言は税法では非常に重要です。

控除対象配偶者の定義は「所得者と生計を一にする配偶者・・・」とされ、扶養親族においても「所得者と生計を一にする親族・・・」とされています。また、医療費控除における医療費も生計を一にしている親族の分を納税者が負担していれば、その分も合計して医療費控除が受けられます。「納税者が負担していれば」の条件が付きますが、誰が負担しているかなんか税務署には分かりませんから、誰が負担していようと一緒に合計して申告すればよいわけです。

「生計を一にしている」というのは、おおまかには、「同じ屋根の下で財布を生活のため共にしている状態」と言えます。また、田舎の親に生活費を仕送りしている場合も、生計を一にしているといえます。

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士 井上 修
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