会社の経営者にとって、自分の会社が業績を上げていって、内部留保利益が増大していくことはたいへん喜ばしいことです。
金融機関や得意先に対しても、会社の信用が厚くなることにもなります。
しかし、こと相続税に関しては、これが思わぬ危険をはらんでいることになるのです。
自社株の相続税評価は、非上場の同族会社の場合、類似業種比準価額や純資産価額などを用いるのですが、第一の目安として純資産価額を考えます。
純資産価額とは、簡単に言えば、会社の総資産から負債を差し引いたもの、すなわち自己資本のことです。決算書の貸借対照表における資本の額の合計がそれに当たります。それに会社の保有資産(土地など)の含み益があれば、その一定額が加味されたものが相続税法上の純資産価額です。
業績を上げて、内部留保が大きい会社の純資産価額は、当然高くなります。
相続に際しては、自社株も相続財産になり、相続税が課税されます。
同じ一億円の財産でも、それが現金預金であれば、それで相続税が払えます。土地であればそれを売って払うか、物納することができます。
しかし、自社株では売ったり、物納することはかなり困難ですし、それをしたら、事業の承継ができず、会社の存続自体が難しくなります。
また、相続税は、相続財産の合計に対して累進税率が適用されます。株価の高い自社株を持っていること自体が、他の現金預金や土地に対する相続税の税率を高めていることにもなります。
会社の業績を上げて、内部留保利益を増大し、会社を大きくしていけばいくほど、将来の事業承継、会社の存続が危険になるというのはまったくの矛盾というほかありません。
しかし、それが現実なのですから、その危険を回避するための対策を早めに講じる必要があります。
対策の第一として、株を子供など事業承継者その他の者に移転して、相続財産から除外してしまうのが効果的です。
移転する方法としては、1贈与する方法と2譲渡する方法があります。以下の点に留意する必要があります。
贈与する方法においては、贈与税を考えなければなりません。年間60万円の基礎控除を活用して、長期的に移転していくことが負担を軽くするポイントです。また贈与の事実を明確にするため、贈与契約書の作成、贈与税の申告、株主名簿、法人税申告書別表2の変更に注意する必要があります。
譲渡する方法においては、譲渡する側に譲渡所得税26%(所得税20%、住民税6%)が譲渡利益に課税されます。譲渡対価が相続税評価額より低いとその差額について贈与とされます。
また購入する側にその資金負担能力がないと、やはり贈与の問題が生じる可能性があります。
会社が赤字というのは、けっして望ましいものではありません。しかし、株価は下がりますので、赤字で気を落とすだけでなく、将来たくさん利益が出て、相続税で悩まないためにも、後継者等への株の移転を検討してください。
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