例年と異なり、令和 6 年 10 月に発足した石破内閣は少数与党ということもあり、税制改正大綱の発表が遅く、12 月 20 日に発表となりました。
いわゆる「103 万円の壁」については、国民民主党の主張する 178 万円を目指して協議していましたが、大綱では 123 万円への引上げとなり、この点は引き続き真摯に協議を行うとされました。
よって、この金額は今後変更となる可能性があるため、注視していくことが必要です。
物価上昇とともに賃上げの傾向がある一方で、103 万円の壁があることで働き控えをするなどの課題を解決する趣旨で見直しがされます。
論点として、本人の課税最低限に関するものと、扶養親族を扶養に入れるかどうかに関するものの 2 つがありますので、順番に確認します。
まずは、本人の課税最低限についてですが、現状、アルバイトやパートの収入が給与所得控除(55 万円)と基礎控除(48 万円)の合計 103 万円を超えると本人に所得税が生じます。103万円という金額は30年前から変わっていませんが、現在までの物価上昇率に基づき、大綱段 階では 2 割上げた 123 万円と明記しました。具体的には、基礎控除を58万円(合計所得2,350 万円以下)、給与所得控除の最低保障額を 65 万円 へと引き上げました。
この改正は、令和 7 年分以後の所得税について適用されます。
なお、住民税は基礎控除(43 万円)の変更はなく、給与所得控除のみ 65 万円に引き上げます。
次に、扶養親族を扶養に入れるかどうかについてですが、現状、16 歳以上の子の収入が 103 万円 以下であれば、親は 38 万円の扶養控除が受けられます。この 103 万円という基準は前述のとおり、123 万円に上がります。
また、19 歳以上 23 歳未満の子については扶養控除が 63 万円に増額されていますが、子の収入要件が 150 万円に引き上げられます。
具体的には、子の収入が 123 万円以下であれば、扶養控除は従来どおり 63 万円とし、123 万円を超えても 150 万円以下であれば、特定親族特別控除として 63 万円の控除が受けられます。さらに、150 万円を超えても 188 万円までは段階的に控除額が逓減する仕組みが創設されます。
今までは、子の収入が 103 万円をわずかでも超えると、親の扶養控除が 63 万円も減ってしまいましたが、この問題は少し解消されそうです。
この改正は、令和 7 年分以後の所得税について適用されます。
資本金 1 億円以下などの中小企業者は、年 800 万円以下の所得について法人税の軽減税率(15%)が適用されています。時限措置ということもあり、令和 7 年 3 月 31 日までの間に開始する事業年度まででしたが 2 年延長となります。
ただし、所得が年 10 億円を超える事業年度については軽減税率を 17%に引き上げるとともに、グループ通算制度の適用を受けている法人を適用除外とするなどの見直しがおこなわれます。この対象は中小企業全体の 0.1%と言われていますので、大半の中小企業には影響がないと考えます。
⑴ リース会計基準(上場企業等が対象)リースに関しては、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の 2 つがあります。令和 6 年 9 月に公表された新リース会計基準では、借手側で今までオフバランスされていたオペレーティング・リース取引も含め、使用権資産 とリース債務を B/S に計上し、減価償却費や支払 利息を P/L に計上することとなります。 この新会計基準は、令和 9 年 4 月 1 日以後に開 始する事業年度から適用されます。
⑵ 税務の改正
上記、会計基準と異なり、税務に関してはオペ レーティング・リース取引の費用については債務確定を基準とし、現行どおり、支払リース
料を損 金算入することとなるため、会計処理と税務処理 が一致しないこととなります。
ただし、新リース会計基準が適用されない大半の中小企業は従来どおりの処理となるため、影響は少ないと考えます。
確定拠出年金法の改正を前提とし、確定拠出年金(企業型・個人型)について拠出限度額が引き上げられます。今回は個人型確定拠出年金(iDeCo)についてのみ触れることとします。
① 第 1 号被保険者(自営業・フリーランス)月額 7.5 万円(現行:月額 6.8 万円)
② 第 2 号被保険者(会社員)
月額 6.2 万円(現行:月額 2.3 万円)(注) 企業年金未加入者の場合
なお、今まで会社員が iDeCo に加入する場合、勤務先に「事業主の証明書」を書いてもらうことが必要でしたが、令和 6 年 12 月からは提出不要となったため、加入手続きのハードルが下がるかもしれません。
防衛費増額に向けた財源確保のため、令和 5 年度税制改正大綱で明記され、対象税目を法人税、所得税、たばこ税の 3 つとしてきましたが、まずは法人税とたばこ税に関し、増税をスタートし、所得税については先送りとしました。
具体的には、当分の間、新たに法人税額の 4% 相当を防衛特別法人税として課すこととしています。ただし、中小企業に配慮する観点から、法人税額から 500 万円を控除して計算するため、所得が 2,400 万円相当以下までは増税の対象外となります。
この改正は、令和 8 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度から適用されます。
⑴ 扶養控除の見直し(縮小)予定
令和 6 年 10 月分から児童手当の対象が高校生年代まで拡大したことに伴い、所得税の扶養控除を 25 万円(現行:38 万円)、住民税の扶養控除を 12 万円(現行:33 万円)に縮小する予定でしたが、今回は見送り、据え置くこととされました。
⑵ 暗号資産取引に係る課税暗号資産取引により生じた損益は、原則として雑所得に該当し、給与所得等と合算して総合課税されます(累進課税)。
今回の大綱では、暗号資産を金融商品として位置付ける(分離課税への方向性)などの見直しを検討することと明記されましたので、今後の動向に注視していくことが必要です。
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