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年収の壁

第347号 2023年4月

1.はじめに

岸田首相は 2 月 1 日、一定の収入を超えると税や社会保険料が発生する「年収の壁」問題の解消に向けて制度を見直す考えを示しました。

ここ最近の物価上昇もあり、大企業を中心に賃上げの動きがあります。小売り大手のイオンはパート約40万人の時給を平均7%上げることを表明しました。

一方で、時給引き上げにより、年収の壁に収入が近づくことで働き損とならないよう、就労時間を調整する傾向があります。

2.年収の壁とは?

年収の壁とは、パートの主婦(主夫)ら配偶者の社会保険や所得税の扶養に入りながら働く人が一定の年収を超えると手取り額に影響が出る問題や金額を指します。

主な壁には、所得税が発生する 103 万円の壁、勤務先の企業規模が一定条件を満たすと、自らが健康保険や厚生年金保険に加入するため、(配偶者の扶養から外れ自らの)社会保険料が発生する 106 万円の壁、企業規模にかかわらず配偶者の扶養から外れ、社会保険料が発生する 130 万円の壁、所得税の配偶者特別控除が減り始める 150 万円の壁があります。

3.103 万円の壁(所得税)

給与収入がある人は、最低 55 万円の給与所得控除があります。また、48 万円の基礎控除があるため、これらの控除額の合計である 103 万円以下であれば、所得は 0 円となり所得税はかかりません。

所得税法上の控除対象配偶者がいる場合には配偶者控除が受けられますが、給与収入が 103 万円以下の人が対象となります。

4.150 万円の壁(所得税)

給与収入が 103 万円を超えると配偶者控除が受けられませんが、配偶者の給与収入が 103 万円超~201 万円以下の場合に控除が受けられる配偶者特別控除という制度があります。

実は、給与収入が 150 万円以下であれば、配偶者控除と同じ金額の所得控除が受けられます。

150 万円を超えても 201 万円までは段階的に控除額が減少していく仕組みです。

5.106 万円の壁(社会保険)

週の勤務が 20 時間以上であり、かつ、賃金の月額が 88,000 円(年収換算で約 106 万円)以上であることなどといった要件を満たすと、パートであっても社会保険の加入義務が生じます。

以前は、従業員数が 501 人以上の企業のみが対象でしたが、法改正により適用範囲が拡大し、2022 年 10 月からは 101 人以上、2024 年 10 月からは 51 人以上の企業も対象となります。

6.130 万円の壁(社会保険)

週の勤務が 30 時間未満のパートの場合、年収が 130 万円を超えると、会社員の配偶者が入る社会保険の扶養対象から外れます。つまり、130 万円というのは社会保険の扶養基準となります。

7.社会保険に加入するメリット

年収の壁(社会保険)は手取り額が減るというデメリットばかりが世の中に広まっている傾向がありますが、メリットもあります。

例えば、社会保険に加入することで、出産手当金や傷病手当金のような休業補償を受けることができ、また、将来もらえる年金額が増えるといったメリットがあります。

アトラス総合事務所 税理士 黒川 洋介
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