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消費税 全額控除認めず

第346号 2023年3月

1.はじめに

転売目的の中古不動産に係る消費税の課税仕入れの用途区分を巡り争われた訴訟がありました。

3 月6 日、ついに最高裁の判決が下り、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、当該事業に関する事情等を問うことなく、共通対応課税仕入れに該当すると解するのが消費税法の趣旨に沿うものというべき」とし、会社側の敗訴が確定しました。

2. 仕入税額控除(課税売上割合による計算)

消費税の計算上、課税売上げに対応するもののみが仕入税額控除の対象となりますが、事務負担等に配慮し、事業全体の売上高に基づく課税売上割合を基に計算できる簡便法があります。

課税売上割合とは、非課税売上も含めた売上全体に占める課税売上高の割合です。

課税売上高が 5 億円以下であり、かつ、課税売上割合が 95%以上の場合には、課税売上げに対応するものか否かの厳密な区分を行わず、課税仕入れ等の税額の全額を控除することができます。

3. 課税仕入れの用途区分

非課税取引とされるのは、土地の譲渡、住宅の貸付けなどに限定されているため、大半の事業者の課税売上割合は95%以上です。

ただし、不動産業などは土地の譲渡や住宅の貸付けがあるため、課税売上割合が低くなる傾向にあります(今回の会社は約35%前後のようです。)。

仕入税額控除で個別対応方式を採用する場合、すべての課税仕入れを次の3 つに区分する必要があります。

  1. 課税売上にのみ要する課税仕入れ(課税対応)
  2. 非課税売上にのみ要する課税仕入れ
  3. 課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ(共通対応)
仕入税額控除=イ+(ハ×課税売上割合)

4.事案の概要

収益不動産の販売を主とする会社が転売目的で、住宅として賃貸されているマンション(本件建物)を購入(本件課税仕入れ)。転売までの間、本件建物を棚卸資産として計上し、その賃料を収受していました。

会社は本件課税仕入れが「課税対応」に区分されるものとして、本件課税仕入れに係る消費税額の全額を控除して消費税の申告を行いました。

しかし、本件課税仕入れは課税資産の譲渡等である建物の転売のみならず、非課税売上である住宅の貸付けにも要するため、「共通対応」に区分されるべき。本件課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額が控除対象となるとして、更正処分等がされました。

5.本件のポイント

税法上、条文に書いてある文章にできるだけ忠実に解釈するという「文理解釈」が原則です。

転売目的で、賃料収入は副産物にすぎないといった個別的な事情は考慮されませんでした。

6.おわりに

令和2 年度税制改正で、今回のような「居住用賃貸建物」については、原則として仕入税額控除が適用できなくなったため、本件と同様の争いは現在生じなくなっています。

アトラス総合事務所 税理士 黒川 洋介
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