9 月に発足した菅政権が「デジタル化」「脱炭素」を政策の柱に打ち出したのを受け、税制改正大綱が 12 月 10 日に発表となりました。新型コロナウイルスの感染再拡大を踏まえ、次の 7 つの柱からなる減税色の強い大綱となります。
これらの基本的考え方に基づき、個人所得課税、資産課税、法人課税の順に確認を行います。
コロナ禍による先行き不透明さなどを背景に住宅取得環境が厳しさを増しています。住宅市場を下支えするため、消費税率 10%への引上げに伴う反動減対策として措置された、控除期間 13 年間の特例の入居期限について、令和 4 年末まで延長されました。
また、この改正については、対象となる床面積が「50 ㎡以上」から「40 ㎡以上」に緩和され、比較的小規模な住宅でも利用できるようになりました。ただし、50 ㎡未満の場合、所得 1,000 万円以下の制限があります。
なお、今回の改正ではありませんが補足します。最近の低金利環境により、住宅ローン控除の控除率(1%)を下回る借入金利で住宅ローンを借りているケースが多く、毎年の住宅ローン控除額が支払利息を上回っていることがあるといった会計検査院の指摘があります。こうした指摘を踏まえ、控除額や控除率のあり方について、令和 4 年度税制改正において見直すこととされています。
退職金については、長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものであることなどから、税負担が軽くなるよう、原則として次のように計算し、退職所得を算出します。
ただし、勤続年数が 5 年以下の役員(特定役員)については従来、2 分の 1 課税の軽減はなく、次のように計算します。
今回の改正により、役員でない従業員についても、勤続年数 5 年以下の短期の退職金については、2 分の 1 課税の軽減措置を適用しないこととされました。ただし、退職所得控除額を除いた支払額300 万円までは引き続き 2 分の 1 課税の適用があります。
なお、この改正は令和 4 年分以後の所得税について適用されます。
海外からファンドや高度金融人材を呼び込むため、相続税や法人税、所得税の負担を軽減する措置が設けられました。ここでは相続税について触れておきます。
現状、外国人でも過去 15 年以内で日本での滞在期間が 10 年を超えると、海外資産にも相続税が掛かります。
今回の改正により、国内に居住する一定の在留資格を有する者を対象に、居住期間にかかわらず、海外財産を相続税の課税対象としないこととされました。
固定資産税の評価額は 3 年に一度見直しがされ、令和 3 年度は評価替えの年に当たり、新しい税額となる予定でした。しかし、コロナの影響を考慮し負担増を回避するため、令和 3 年度に限り、増税となる土地については税額を据え置くこととされました。
なお、減税となる土地については税額に反映させることとなります。
コロナ禍においては、行政サービスや民間分野のデジタル化の遅れなど、様々な問題が浮き彫りにされました。政府はデジタル庁を来年設置することを掲げ、行政のデジタル化を進めることとし、企業においても変革を促すため、税制優遇策を設けました。
クラウドサービスの導入など、一定の設備投資を対象とし、次のいずれかの選択適用が認められます。
上記の適用を受けるためには、ソフトやIT機器への投資計画を国に提出し、認定を受ける必要があります。
コロナ禍において雇用の維持・確保への懸念がある中、中小企業全体として雇用を守りつつ、賃上げによる所得拡大を促すことが重要です。このため、賃上げだけでなく、雇用を増加させる企業を下支えする観点から、従来の「①雇用者給与等支給額が前年を上回ること」及び「②継続雇用者給与等支給額の 1.5%以上増加」という要件を「雇用者給与等支給額が 1.5%以上増加」という要件に見直すこととされました。
また、雇用者給与等支給額からは雇用調整助成金等を控除しないこととされました。
なお、大企業向けは既存従業員の賃上げだけでなく、新規雇用も考慮した要件に見直されました。
税務手続の負担軽減のため、税務署長等に提出する国税関係書類のうち納税者等の押印を求めているものについては、押印義務を廃止することとされました。ただし、現行において実印による押印や印鑑証明書の添付を求めているもの(遺産分割協議書など)は除きます。
経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、電子的に保存する際の手続きを抜本的に見直すこととされました。
国税関係書類に係るスキャナ保存制度については、①承認制度の廃止、②タイムスタンプ要件について、付与期間(現行 3 日以内)を最長 2 月以内に緩和、③適正事務処理要件(相互牽制など)の廃止、といった見直しがされました。
中小企業者等の法人税の軽減税率(15%)について適用期限の 2 年延長、研究開発税制の見直し、株式対価M&Aを促進するための措置の創設、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設などが挙げられます。
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