この原稿を書いている 9 月 15 日は、日産のゴーン元会長事件に係るケリー元代表取締役の初公判です。ゴーンさんはイリュージョンのようにいつの間にかレバノンに空間移動して、ケリーさんは一人日本に取り残されてしまいました。海外への渡航が禁止されているため、約 2 年間もアメリカにいる家族に会えていないということです。
私が監査法人に在籍していた 30 数年前の有価証券報告書には、役員報酬の開示は求められていませんでした。それが 2010 年に 1 億円以上の役員報酬を有価証券報告書において開示することが要求されています。
ゴーンさんはケリーさんと共謀して、8 年間の間に 91 億円の役員報酬を少なく記載した有価証券報告書を提出し、ケリーさんはこの共謀の罪で訴えられています。
有価証券報告書とは、上場会社等が投資家の投資判断に資するために提出を義務付けている決算内容を中心とした報告書です。本来赤字であるのに黒字であるとした粉飾決算をして、この報告書を提出したのであれば投資の判断を誤らせる重要な事項の虚偽記載に該当します。
しかし、売上高 10 兆円の会社において年間 10億円くらいの役員報酬が過少に報告されていたことが、投資家の判断を狂わせるのかどうかはちょっと疑問に感じます。
有価証券報告書に記載していなかった役員報酬には、退職後にもらう予定であった金額も役員報酬の未払い分として含まれています。話は脱線しますが、外資系の会社では毎月もらう役員報酬は少額にして、退職後にもらう退職金を高額にすることがよくあります。理由は節税で、所得税や住民税が安くなるからです。
役員の在任期間が 6 年で、役員報酬を月額 100万円もらう場合、年間の税額(所得税・住民税)は約 260 万円、6 年間で 1,560 万円となります。
一方、役員報酬を月額 50 万円、退職金を 3,600万円もらう場合、役員報酬における年間の税額は約 74 万円、6 年間で 444 万円です。そして退職金に係る税額は約577万円となり、合計税額は1,021万円となります。
役員報酬だけの税額は 6 年間で 1,560 万円、一部を退職金でもらう場合は、6 年間で 1,021 万円で、差し引き 539 万円の税金が安くなるのです。
役員の在任期間が 5 年で、役員報酬を月額 100万円もらう場合、年間の税額は約 260 万円、5 年間で 1,300 万円となります。
役員報酬を月額 50 万円、退職金を 3,000 万円もらう場合、役員報酬における年間の税額は約 74万円、5 年間で 370 万円です。そして退職金に係る税額は約 1,138 万円となり、税額合計は 1,508万円となります。在任期間が 5 年以下ですと税額が逆転します。税法で在任期間が 5 年以下の節税策を封じているのです。
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