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取締役の刑事責任

第296号 2019年1月

1.はじめに

取締役とは、会社のかじ取りをする経営者です。

取締役は、株主総会で選任されて会社との間で委任契約が結ばれます。つまり、会社が利益を出すことを株主から委託された人です。ですから、取締役は会社に利益をもたらすように、忠実に職務を執行する責任を負っています。

2.有価証券報告書虚偽記載

ゴーンさんは、有価証券報告書虚偽記載の罪の疑いで逮捕されました。有価証券報告書とは、上場会社等が金融庁への提出を義務付けられている報告書です。決算書も含まれていて、監査法人や公認会計士の監査報告書の添付が義務付けられています。私も監査法人勤務時には有価証券報告書の正確性の検証をやっていました。

有価証券報告書は、会社の状況が細かく記されていて、投資家にとっては会社に関する最も詳しい公開情報となります。報告書には1億円を超える役員報酬について各人ごとの記載が義務付けられています。

粉飾決算で利益を水増しした有価証券報告書を見て投資した投資家はたまったものではないですが、役員報酬の金額が少なく記載されているくらいでは投資判断に影響はしないので「なぜ逮捕?」と最初は思いました。

3.取締役の特別背任罪

取締役は、会社に利益をもたらすように職務を執行しなくてはなりません。それなのに、自分や第三者の利益のため、又は会社に損害を加えるために会社の任務に背く行為をして、会社財産に損害を加えた場合に、特別背任罪は成立します。10年以下の懲役もしくは1,000 万円以下の罰金刑となります。ゴーンさんは特別背任罪の容疑で再逮捕されました。

4.総会屋等に対する利益供与の禁止

株主としての権利行使を乱用して会社に金品を不当に要求するプロ株主などを総会屋といいます。これらのプロ株主に金品などを渡す利益供与行為は禁止されています。

この規定に違反して利益供与した者には3 年以下の懲役または300万円以下の罰金が課されます。

5.法人税法違反

脱税による刑事罰です。国税局の査察部門はこの脱税の摘発を目的にしています。通常の税務調査とは違い、脱税を見つけて刑事告発するのが目的になります。

これに対する刑罰は、10 年以下の懲役もしくは1,000 万円以下の罰金となります。

6.インサイダー取引

上場会社等の取締役が会社の重要事実を知りつつ、その重要事実が公表される前に、会社の株式等を売買することをインサイダー取引といい、金融証券取引法上の罰則の適用があります。

5 年以下の懲役もしくは500 万円以下の罰金となります。

7.最後に

ゴーンさんはまだ釈放されていません。日産自動車はゴーンさんの力で立ち直ったかもしれませんが、取締役は会社の利益のために忠実に働くという基本を忘れてはいけませんね。

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士 井上 修
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