スポーツ用品メーカーのNIKE の創業者であるフィル・ナイトの自伝である「SHOE DOG」という本を読みました。とても面白い本で、ビジネスにも役に立つ内容てんこ盛りで、引き込まれるように読み終わりました。
著者は、日本のシューズメーカーであるオニツカタイガーに、アメリカでの代理店となるべく単身で日本に乗り込んで、代理店契約を獲得します。
しかし、資金力のなさや、オニツカタイガーのアメリカへの進出計画などにより、著者とオニツカタイガーは対立します。著者は、生き残るために独自ブランドのNIKE を立ち上げますが、これに対してオニツカタイガーが契約違反として裁判を起こします。著者は、アメリカでの裁判で勝訴してNIKE の経営に集中します。
創業時から資金調達には苦労します。商品を仕入れて販売するビジネスでは、仕入代金の支払いが先行して、商品の販売による売上代金の回収は必ず後になります。そして商品在庫も必ず生じますので、その分更に資金負担が生じます。
NIKE の売上高は右肩上がりで上昇し、それに伴い資金は常にショートするようになります。その資金ショートを埋め合わせるためにあるのが銀行融資であり、銀行融資なくしてNIKE のような急成長企業は生き残ることはできません。
NIKE の急成長による旺盛な資金需要に対して地元の銀行は融資枠をなかなか広げてくれず、とうとう資金不足から小切手の支払を落とすことができなくなってしまいます。銀行は小切手の不渡りを理由に取引の停止を宣告し、NIKE は会社存続の危機に直面します。
著者は、以前から資金援助を受けていた日商岩井(現、双日)にこの苦境を伝えたところ、日商岩井の担当者とその上司が、取引を停止するとした銀行に著者と同行します。すると日商岩井は「NIKE の借入金全額を日商岩井が肩代わりします」と言って、このNIKE の苦境を助けました。
今のNIKE があるのも日本の総合商社あってのことと知り嬉しくなります。
著者は、NIKE の経営の自由度を確保するために株式公開については否定的でした。しかし、売上の拡大は止まらず、資金需要の発生→銀行借入増という図式は大きくなる一方です。
返済のない資金調達である株式公開は、会社の財務体質を激変させる唯一の選択肢であることから、NIKE は株式公開に踏み切りました。
本書を通じて強く感じたことは、著者らはビジネスにおいても正直であったことだと思います。正直な取引や言動に信頼が生まれ、それがビジネスの力になったことがうかがえます。
ちなみに「SHOE DOG」とは、靴の製造に命を懸ける人のことを意味します。
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