事業は上手く行けば寿命なんてありませんが、経営者には寿命があります。したがって、何時かは経営から身を引くことになるのですが、なかなかすんなりとは行かないのが実情です。実例とともに解説します。
もう10 年以上前かと思われますが、仕事を通じて知り合った同業者から「もうこのままだと仕事が先細りするのが見えているので、クライアントと社員の面倒を見てもらえないか」という連絡がありました。「なぜ事業を手放すのですか?」 と聞くと、還暦を過ぎた経営者は、「昨年体調を崩し、もう仕事を離れて自由になりたい」とのことでした。しかし、数日後に、「やはりこの話はなかったことにしてください」と連絡がありました。おそらく社員が反対したのでしょう。
事業そのものを第三者に譲渡する方法としては、上記のように社員と得意先といった事業そのものを譲渡する営業譲渡と株式や持分を売却して法人組織そのものを譲渡する方法、そして合併などの方法があります。
一緒に会計士試験を合格した友人は、父親も会計士で事務所を経営している2 代目です。数年監査法人に勤務後、父親の事務所に入りました。父親は、クライアントに息子を紹介する度に「何もできないバカ息子ですが、よろしくお願いいたします。」と、常に息子を卑下する言葉を並べ立てていました。所長と部下との関係ではなくて、親と子の関係を仕事に持ち込んだ結果、息子は父親の事務所を出て行ってしまいました。
自分の子供に事業を引き継がせるのは理想的ですが、そこでは親子の関係は捨ててビジネスライクに徹する必要があるでしょう。
代表者退任パーティーということで、ホテルの宴会場に招かれました。もともと技術者で、まるっきり畑違いの事業を始めて、経営危機も経験し、それでも業界で頭角を現した苦労人の経営者の退任パーティーです。お世話になった人への感謝を込めた宴会で、清々しさを感じたお別れ会でした。後任の社長は優秀な従業員で、うまくバトンタッチできたケースです。しばらくはオーナー兼会長としてたまに会社に顔を出す程度がちょうど良く、事業運営は円満に行っています。
事業活動を中止する場合、2 つのやり方があります。会社組織をそのまま放置して事業を休止する方法(休眠)と、会社組織を解散・清算して組織自体をなくす方法です。
休眠とする場合、会社組織は存続しますが事業活動をしていないことから納税義務は生じません。ただし、将来的に事業を復活させる可能性があるような場合は、税務申告だけ継続します。
解散・清算の場合は登記費用等がかかりますが、法人組織そのものが存在しなくなるためスッキリした形での活動休止となります。
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