本来の納税者が税金を滞納して、税務署が差押等の滞納処分を執行しても、所有する財産が少なくて税金を全額回収できないと認められる場合、納税者と一定関係がある者に対して、二次的に納税義務を負わせようとする制度が第二次納税義務です。
会社の税金を個人が肩代わりすることもあるこの制度について以下説明します。
株式会社の株主は有限責任です。有限責任とは、出資した金額以上の責任は負わないというものです。つまり、株式会社に課された税金の納税義務が株主にまで及ぶことはないわけです。
一方、合名会社では社員(出資者)は全て無限責任社員であり、合資会社では、有限責任社員と無限責任社員の両者が存在します。無限責任社員は、会社に対して無限に責任を負いますので、会社の滞納税金について第二次納税義務を負います。なお、合同会社の社員は有限責任ですのでご安心ください。
清算人とは、会社が解散した場合の代表者のことで、会社に残っている財産をすべて換金して株主に分配することが主な仕事となります。
解散する会社が税金を滞納しているにもかかわらず、会社の財産を株主に分配した場合には、清算人及び分配を受けた株主に第二次納税義務が生じます。
税金を滞納している個人事業者が、法人を設立して租税負担を免れた場合を想定したものです。
所得税300万円を滞納している個人Aが500万円を出資して新会社を設立しました。個人Aには出資して手に入れた新会社の株式以外に差押に適する財産がない場合、税務署は新会社に出資額を限度として第二次納税義務を課すことになります。
税法では、名義に限らず実質的に所得が帰属する者に課税する実質所得者課税の原則があります。
つまり、夫がお金を出して妻名義で株式を購入し、その配当収入を夫の所得としている場合、株式の名義は妻でも実質の所得者は夫とされ、夫に税金は課税されます。
ところが夫が税金を滞納した場合、税務署は私法上の権利関係、つまり名義を前提に手続きを進めなくてはならず、差し押さえられるのは夫名義の財産だけで、妻名義の株式を差し押さえることができないのです。
この不都合を回避するために、実質所得者課税がされた場合、名義人に対しても第二次納税義務を課すこととなるのです。税務署は、夫に資力がない場合、妻名義の株式を差し押さえることができるのです。
納税者の事業に欠くことのできない重要財産が、親族又は同族関係者の所有であり、その財産を利用して納税者が所得を得ている場合、その財産の所有者に第二次納税義務を課すという制度です。
妻が所有する店舗を賃借して商売をしている夫が税金を滞納して、夫には納税する資力も財産もない場合、税務署は店舗の所有者である妻に対して第二次納税義務を課すことができます。
事業を営んでいた納税者が、滞納税金を残したまま、その事業を親族その他の特殊関係者に譲渡した場合、譲渡を受けた者に第二次納税義務が課されることがあります。
税金を残したまま自分がコントロールできる会社や個人に事業自体を譲渡しても、その譲渡先も第二次納税義務を負うという制度です。
この第二次納税義務を追及されないためには、親族や同族会社にあたらない第三者に譲渡すること、同一場所・類似の事業でないことのいずれかの条件をクリアすることが必要です。また、営業の中心的なノウハウや重要な取引先の引継ぎを伴わない譲渡は、この制度の対象にはならないと考えられています。
滞納者が、自分の財産を無償又は著しく低い価額で第三者に譲渡するなどして、自らの滞納税金を納税できないようになった場合に、その第三者に第二次納税義務を負わせる制度です。このケースが第二次納税義務の実務では最も多く見られます。ここで「著しい低額」とは、時価のおおむね2分の1に満たない価額が該当します。
滞納者が所有する時価1,000万円の不動産を第三者に200万円で譲渡したとすると、税務署は第三者に対して時価と譲渡価額との差額である800万円を限度に第二次納税義務を課すことができるのです。
PTAや同業者団体のような人格のない社団は、法人格がないので不動産や自動車などの登記・登録を団体ですることはできません。通常、代表者の個人名で登記・登録をします。団体で納税義務があり、税金を滞納している場合、個人名で登記・登録してある不動産や自動車を差押えできるように、名義人に第二次納税義務を負わせる制度です。
滞納者が税金の支払を猶予等してもらうための担保として、納税保証書の提出を要求されることがあります。いわゆる納税の保証人で、滞納者が納税を履行しない場合に、保証人に納税義務が生じます。
相続人が複数いる場合、相続税の納税をその中の誰かが滞納した場合、他の相続人は連帯して相続税を納税する義務があります。ただし、相続税の法定納期限から5年を経過すると、連帯納税義務の追及は行われません。
滞納者が死亡すると、納税義務は相続人に承継されます。相続財産より滞納額が多い場合は、相続を知った日から3か月以内に相続放棄の手続きを取ることが必要です。
「差押え 実践・滞納処分の対処法」東銀座出版社参照
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