経済のグローバル化により国際間の取引が活発になっています。コンビニのレジにいる外国人はもうあたりまえで、キャディが全員外国人というゴルフ場もあります。国際間の取引には国内取引とは異なる税金の仕組みがあり、それを理解して適用しなくてはなりません。この国際税務を簡単に紹介いたします。
日本の法人及び居住者である個人も原則として全世界で発生した所得に税金が課税されます。日本で発生した所得を国内源泉所得、日本以外で発生した所得を国外源泉所得と言いますが、この両方に日本の法人及び個人は課税されるということです。
日本の法人や個人が例えばA国で取引をして国外源泉所得が発生した場合、この所得に対してA国で税金を課すのが通常です。日本では、A国で生じた国外源泉所得を含めて課税しますので、国外源泉所得は2カ国で税金を課せられてしまいます。いわゆる二重課税です。
A国で生じた国外源泉所得にA国で課税され、更に日本でも課税されたらたまりません。そこで、日本で税額計算するときにA国で課税された税金を、税金計算上差し引くことで二重課税を回避することができます。この調整計算を外国税額控除と言います。つまり、外国で払った税金を日本で払う税金から控除するというものです。
そもそも日本の法人及び個人の国外源泉所得にA国が課税するから二重課税の問題が生じるわけですので、A国で課税しなければ二重課税の問題はありません。日本とA国で、日本の法人や個人がA国で生じた国外源泉所得に対して、A国で税金を課さないとする、いわゆる課税の減免を定めるのが租税条約です。租税条約は、日本国内の税法に優先されて適用されます。
日本の税法では、外国法人から与えられている特許権の使用料を外国法人に支払う場合、支払額から20.42%の源泉徴収をして支払うことになっています。
一方、日本とドイツの租税条約では、特許権等の使用料を支払う場合は、10%の税率を超えない定めとなっているため、日本の税法に優先して、支払額から10%を源泉徴収してドイツの会社に支払うことになるのです。
国際取引は、まず日本の税法に照らし合わせます。日本の税法では、外国法人や外国人が日本に恒久的施設(Permanent Establishment)を有するかどうかで、日本での所得を申告するか、源泉徴収だけで終わらせるか、免税になるかどうかが決まります。
外国法人の支店が日本にあれば、それはまさしく恒久的施設となります。支店がなくても日本のホテルの一室を事務所代わりに使って営業活動をしたり、日本人を専属の代理人として営業することも、ホテルの一室や代理人が恒久的施設に該当します。
個人の所得税を課税する場合、その人が居住者か非居住者かの判断が重要となります。
居住者とは、国内に住所があるか、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を言います。居住者以外の個人が非居住者となります。
非居住者は、日本国内で生じた国内源泉所得だけが課税の対象とされます。
居住者でも日本国籍がなくて過去10年間のうち5年以下の期間日本に住所又は居所を有する個人は、非永住者として国内源泉所得と国内で支払われる又は国内に送金される国外源泉所得が課税の対象となります。
それ以外の居住者は国内源泉所得と国外源泉所得も課税される全世界課税です。
ドイツに居住するドイツ法人の外国人が日本に3週間の出張に来て、その間の給与はドイツ法人が負担する場合の課税関係はどうなるでしょうか?日本の所得税では、年間給与の日本で働く3週間分が課税されますが、日独租税条約では日本での滞在が年183日を超えない場合は、日本での課税は免除されます。
日米租税条約でも同様の183日の免除規定がありますが、183日のカウントが暦年ではありませんので注意が必要です。
日本法人の社員が海外へ3年の予定で赴任した後に、日本で賞与が支払われた場合の課税関係です。
日本を出た時点で、この社員は非居住者になります。非居住者に対して、国内源泉
所得となる賞与を支払う場合、20.42%の源泉徴収が必要となります。賞与の支給対象期間が出国前後をまたがる場合には、日割りで求めた国内源泉所得部分が課税の対象となります。
日本で勤務することなく、米国法人の米国在住の役員を、日本法人の非常勤役員とした場合に、支給する役員報酬の課税関係です。
非居住者に対する役員報酬の支払いに関しては、通常の給与とは異なり、国外での勤務でも日本国内の国内源泉所得とされます。したがって、20.42%の源泉徴収をして支払うことになります。
日本法人の社員が海外子会社に3年間の予定で赴任し、空いた自宅を日本法人が社宅として借り上げた場合に、この社員に支払う家賃の課税関係です。
非居住者が日本法人から家賃の支払いを受ける場合には、家賃の支払い時に20.42%の源泉徴収が必要になります。そして赴任した社員は日本で不動産所得の確定申告が必要になります。
なお、非居住者への不動産の賃料の支払でも、賃借したのが個人で、自己又はその親族が居住するのであれば源泉徴収をする必要はありません。
「基本から理解する国際税務の実務入門」税務研究会出版局刊参照
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