会社の利益は、収益から費用を差し引いて計算されます。収益が一定であれば費用が多ければ多いほど利益は少なくなります。
そこで、決算が近くなると利益を少なくするために費用を計上して、それに伴い納税も少なくするといった発想が自然と出てきます。しかし、費用を計上しようとしたものの、結果的に計上できなかったというケースも間々ありますので以下説明します。
決算近くになって旅行会社に社員旅行の代金として50万円支払いました。決算日までに社員旅行に行ったのであれば、①旅行期間が4泊5日以内、②社員の半数以上が参加、という要件を満たせば、会社が負担する旅行費用はその期の費用となります。
一方、社員旅行に行くのが決算日後であれば、旅行会社に支払った代金は旅行費用の前払金となり、決算では一切費用となりません。
前払でも費用になるものがあります。家賃、保険料、機械等の保守料などを、契約に従って年払いしても、決算日以後の前払の金額を含めて支払い時の費用とすることができます。例えば、3月決算で4月から翌年3月までの家賃を3月に支払えば、翌年1年分の家賃を決算月である3月の費用とすることができるのです。
会計事務所の報酬も顧問契約書を年払い契約に改めて年払いすれば、支払い時の費用となるかというと、答はNOです。
前払の対象となるサービスは等質等量である必要があり、会計事務所のサービスはいつも同じ内容ではないことから対象にならないのです。
決算間近に部品や材料を大量に購入しても、それらを決算日までに販売もしくは使用しなければ、その期の決算で費用になりません。では何になるかというと、決算日現在で残っている部品や材料は在庫として棚卸資産になります。
切手や商品券も同様で、決算日現在で未使用の切手や商品券は、貯蔵品として棚卸資産となり費用になりません。
とはいっても、少額な部材や切手類を、決算日に棚卸をして在庫計上するのも面倒なものです。そこで、金額に重要性がなく、毎期おおむね一定数量を購入して経常的に使うものについては、購入時の費用として処理し、在庫計上をしなくてもよいとする扱いがあります。対象は、事務用消耗品費(切手、文房具など)、作業用消耗品(手袋、タオル、ウエス、グリスなど)、包装材料(包装紙、ひも、シールなど)、広告宣伝用印刷物(会社案内、パンフレットなど)、見本品などです。
取引先や仕事を紹介してくれた人に対して商品券を購入して渡すことがあります。会社が購入する商品券は、チケットショップなどで資金化することができるため、税務調査時には注目されます。
誰に、何時、どのような理由で渡したのかを会社で記録しておく必要があります。それがないと税務署は「渡したのではなく、換金もしくは社長が使ってしまったのでは?」とあらぬ疑いをかけてきますので要注意です。
お金をすぐに出さなくても費用計上ができる場合があります。決算で利益が見込めそうなので社員に決算賞与を支払う場合、次の要件を満たせば決算で未払賞与として費用計上できるのです。
①賞与支給額を、支給を受けるすべての社員に各人別に通知していること
②通知をした事業年度の決算日の翌日から1か月以内に通知した賞与支給額を支払っていること
金額が多くなる役員退職金は、株主総会の決議等によって退職金額が具体的に確定した事業年度で費用計上するのが原則です。決算までに役員退職金を費用として未払計上して、翌期に退職金を支払うことができるのです。
逆に、役員退職金額が確定した事業年度で費用を計上しないで、退職金を実際に支払った事業年度で費用計上をすることもできます。
新たに支払いを起こすことなく、今ある会社の資産を洗い直すことで費用を計上できることがあります。
決算書に計上してある固定資産の内訳を個々に調べて、もうすでに存在しないもの、物はあるけれども使えないもの、もう使わないもの、などがないかどうかを調査します。物がなければ、決算書計上額を除却損として費用計上し、使えない・使わない物については廃棄したうえで除却損として費用計上しましょう。
売掛金のうち、長期未回収のものがないかどうか調査しましょう。継続的に取引をしていた取引先の売掛金が未回収の状態である場合、取引停止後1年を経過すれば未回収額を貸倒損失として費用計上することができます。その他の回収不能売掛金についても、取引先の状態により貸倒損失を計上できるかどうか検討する必要があります。
固定資産や売掛金で財産価値がないものは費用として計上できる余地があることを説明しました。一方、財産価値があるものは当然費用計上することができないのですが、例外としてできる制度があります。それが経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)です。
毎月の共済掛金は、全額費用として計上でき、40カ月以上掛けると、その後解約をしても掛金の全額が戻ってきます。つまり、掛金の全額が将来戻ってくるという財産価値があるのにもかかわらず、掛金が全額損金となり、かつ翌年1年間の掛金を前納すると、その前納した掛金も全額支払い時の費用として計上できる優れものなのです。
本来は、取引先の倒産によって売掛金が回収困難となった場合に、最高8,000万円の共済金の貸付が受けられる制度ですが、節税にも利用できる便利な制度なのです。
無断転用・転載を禁止します。