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すぐにできる相続税対策

第251号 2015年04月

1.はじめに

今年から相続税法が改正となり、基礎控除が大きく変わりました。基礎控除とは、相続財産から借入金などのマイナスの財産を控除した後の総遺産額から差し引ける金額で、総遺産額が基礎控除に満たなければ、相続税は生じません。

昨年までは、5,000万円+1,000万円×法定相続人数で計算されましたが、今年からは3,000万円+600万円×法定相続人数で計算されます。

相続人が妻と2人の子の場合、改正前は5,000万円+1,000万円×3人=8,000万円でしたが、改正後は3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。

このようなことで、これから相続税がかかるケースが確実に多くなります。

2.法定相続人を増やす

基礎控除が増えれば相続税額は確実に減らすことができます。法定相続人が1人増えれば基礎控除が600万円増えます。

法定相続人を増やす方法としては養子縁組があります。孫や長男のお嫁さんをおじいちゃんの養子にすれば、おじいちゃんの法定相続人は1人増えます。

バブル期において、相続税対策として何人もの養子縁組をしたケースがかなりあったことから、現在では法定相続人になれる養子縁組の人数を制限しています。

実子がいる場合には養子のうち1人のみを法定相続人の数に含め、実子がいない場合には、2人までを法定相続人の数に含めます。

相続税対策で息子の嫁を養子縁組したところ、後に息子夫婦の仲が悪くなってしまい、別居状態に。しかし、妻が父親の養子になっていることから、離婚もできないといったケースもありますので、安易な養子縁組はしてはいけません。

3.一時払い生命保険

相続人が取得した生命保険金は相続財産に含められますが、法定相続人1人当たり500万円の非課税限度額があります。法定相続人が3名の場合、500万円×3名=1,500万円が非課税限度額となり、1,500万円までの生命保険金を相続人が受け取っても、相続税は課税されないことになります。

おじいちゃんの銀行預金が1,500万円あるとすると、相続があった場合1,500万円の預金は相続財産となり、例えば相続税率40%が適用されると、1,500万円×40%=600万円の相続税が預金に対してかかることになります。

一方、この銀行預金1,500万円でおじいちゃんが相続人を受取人とする一時払いの終身生命保険入るとします。その後相続があり、相続人は1,500万円の保険金を受け取ります。法定相続人が3人とすると生命保険の非課税限度額は1,500万円ですので、相続税はかかりません。

銀行預金から、保険金に姿を変えるだけで、相続税が600万円も安くなります。

健康状態の告知なしで90歳まで入れる一時払いの終身保険がありますので、利用する価値はあると思います。

4.死亡退職金

相続人が受取った退職金に対しても、生命保険金と同様に法定相続人1人当たり500万円の非課税限度があります。つまり、おじいちゃんが経営していた同族法人から、亡くなったおじいちゃんの退職金を1,500万円相続人に支払っても相続税はかかりません。退職金は同族法人の経費となり、死亡退職金は所得税も非課税ですので、節税メリットは大きいと言えます。

5.債権放棄をする

おじいちゃんが経営している同族法人におじいちゃんがお金を貸している場合は、相続があると貸付金として相続財産となり相続税が課税されます。

同族法人の業績が悪く火の車である場合は、法人への貸付金を相続人が相続しても、資金の回収が困難であるため財産価値がないことがあります。

このような場合は、おじいちゃんが元気な内に貸付債権の放棄を法人にしましょう。法人では借入金の返済免除ということで債務免除益が計上されますが、会社が赤字で繰越欠損があればそれと相殺されて法人税は課税されません。

6.同族法人に遺贈する

同族法人が赤字であれば、おじいちゃんの相続財産を同族法人に遺贈することも考えられます。

遺贈とは、遺言書により相続財産を誰かへ無償で譲ることです。おじいちゃんが遺言書を書いて、「銀行預金1,000万円を同族法人に遺贈する」とすれば、同族法人は相続財産を取得することができます。

法人が相続財産を取得すると、相続税はかかりません。その代り、もらった財産の額だけ法人で受贈益が生じるのです。法人が黒字であれば受贈益が生じると法人税が課税されますが、赤字で繰越欠損もあれば、その範囲内での受贈益は相殺されますので、結果として法人税は課税されません。

7.相続開始前3年以内の贈与

相続が開始する前の3年以内におじいちゃんから相続人が受けた贈与については、すべて相続財産として取り込まれてしまいます。つまり、駆け込みでの親から子への贈与はダメということになります。

この制度の対象となるのは、相続財産を取得した者に対する3年内の贈与ですので、相続財産を取得しない孫や子の嫁などは対象となりません。ですから駆け込みでの贈与は孫や子の嫁などにするとよいでしょう。

8.教育資金の贈与は効果的

祖父母などから孫などへの1,500万円までの教育資金の一括贈与の制度は平成31年3月31日まで延長されました。1,500万円を駆け込みで孫に贈与しても贈与税は非課税で、かつ、その後すぐに相続が生じても3年以内の贈与として相続財産に取り込まれることもなく、又、教育資金管理契約が継続中であれば、孫が贈与された資金を一銭も使ってなくても残額を相続財産に取り込まれることもありません。

9.結婚・子育て資金の一括贈与

結婚や子育てに必要な資金を1,000万円まで一括贈与しても贈与税がかからないとする制度がこの4月からできました。

仕組は教育資金の一括贈与と同じですが、駆け込みで子や孫にこの制度を使って1,000万円を贈与しても、相続時点でまだ結婚や子育てに使っていない残金がある場合には、相続財産として取り込まれてしまいます。

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士・行政書士 井上 修
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