アトラスNEWS ~Monthly 税務・経営・節税情報~

銀行に対する基礎知識

第244号 2014年9月

1.はじめに

銀行に預金するだけでしたら銀行との付き合いを意識する必要はありませんが、借入を起こすとなると銀行との付き合いが必要となります。そのための基礎知識を説明します。

2.預金口座は簡単に作れない

振り込め詐欺を代表とする経済犯罪の多様化から銀行も口座開設にかなり慎重になっていて、以下のようなケースでは口座を開設しにくくなっています。

  • 本店所在地より遠方の支店での開設
  • バーチャルオフィス、レンタルオフィスを本店所在地としている場合
  • 会社の目的が数多く多岐にわたる場合
  • 会社の目的に「投資業」とある場合
  • 会社の目的に許認可が必要なものがあって、その許認可を受けていない場合

3.優良企業には銀行からアプローチ

銀行の本業は、預金を集めてそれを原資に融資をして利息を稼ぐことです。バブル後において銀行はかなり痛い目に合っていますので、融資したお金がほぼ確実に返済される優良企業に対しては都銀からでも積極的な融資のアプローチがあります。銀行は常に信用情報等から中小企業の内容把握に努め、貸して安心な中小企業には融資に積極的です。

4.預貸率

銀行の預金に対する貸付の割合を示した銀行の指標で、銀行にとってはこの割合が大きいほど融資に積極的ということになります。

現在は銀行平均で68%くらいということで、低い値で推移しています。

5.運転資金

銀行で運転資金とは、次の算式で求められる値を言います。

売掛債権+棚卸資産-買掛債務

売掛債権とは売掛金や受取手形を内容とし、棚卸資産は商品等の在庫で、買掛債務とは買掛金や支払手形を内容とします。つまり、商品を現金で仕入れて同日に現金で販売すれば運転資金は要りませんが、商品を掛で仕入れてそれを掛で販売して、しかも在庫を持つとなると、在庫を持つ資金と掛での入金と支払との差額分の資金が常に必要となります。これを運転資金というのです。

例えば運転資金を月の売上高で割ると1.5といった倍率が計算されたとします。この倍率が1.5ということは月の売上高の1.5か月分の運転資金が常に必要であることを意味します。倍率が低ければ必要な運転資金は少なくて済みますので、倍率が低い方が望ましいといえます。

6.営業キャッシュフロー

営業キャッシュフローは、簡便的に次の算式で求められます。

経常利益+減価償却費-法人税等

損益計算書の経常利益に金銭の支出を伴わない経費である減価償却費を足して、税金を差し引いた額が営業キャッシュフローです。会社の営業活動で稼いだお金を意味します。

借入金をこの営業キャッシュフローで割ると、会社の営業活動で稼いだお金で借入金を何年で返済できるかが分かります。7年以内が望ましいといわれています。

7.現金が多額にあると・・・

よく貸借対照表に多額の現金が記載されていることがあります。店舗の釣銭用の現金というように、現金が多額にある理由が明確であれば問題ないのですが、経理処理の結果として現金が多額に計上されていると銀行はよい顔をしません。

現金が多額になる理由は、預金から現金を引出してそのままになっているケースが考えられます。通常、預金から現金を引き出したら、そのお金を使った領収書をもとに経理処理をします。預金から5万円を引き出して旅費の精算をすれば、その引き出した5万円は旅費交通費として経費処理されます。

それが何も精算処理がないと、預金から現金を引き出して現金が増えたとする経理処理になります。この処理が度重なると現金がどんどん増えていくことになるのです。あまり良いことではないですね。

8.期限の利益

銀行から融資を受けると、金銭消費貸借契約書を締結します。そうすると契約に従い何年何月まで毎月いくら返済するとして返済の分割払いが始まります。このように期限まで借入金の返済が猶予されていることを債務者の期限の利益といいます。

税金や社会保険料を滞納して督促状が来ているのに何も連絡をしないでいると、銀行預金を差し押さえられることがあります。預金の差し押さえは、融資における期限の利益の喪失原因となります。銀行から「預金の差し押さえにより融資金の期限の利益が喪失したので、残額を直ちに支払え」と言われても対抗できません。

9.創業時融資では資本金を多めに

会社を設立して融資を受けようとする場合、資本金は多めに設定した方が融資を受けやすいといえます。つまり、ある程度の自己資金を用意できなければ、つまり、創業者本人がある程度の資金リスクを負担しなければ、銀行も融資に積極的になれないということです。

10.融資を受ける

銀行から融資を受けるにあたって留意すべき点は以下のようなことです。

  • 総資産に占める自己資本の割合である自己資本比率は最低でも20%以上は欲しい。
  • 役員貸付金が多額にあるのは望ましくない。
  • 赤字でも2期くらいの赤字であれば融資の可能性はあるが、3期連続赤字であると厳しい。
  • 設備投資などの目的で融資されたお金は、その目的の通りに使う。目的以外の使途が銀行に分かれば銀行の信用を失う。
  • 融資の申し込みに当たっては、事業計画書、資金計画書などで具体的な資金の必要性と、その返済可能性を説明する。

11.借りないに越したことはない

借りた金は返さなければなりません。金利が安いからといって安易に銀行から融資を受けると、手元資金が潤沢となり慎重な経営判断を狂わす原因となります。

経営不振で資金が不足する場合には、その原因を究明して資金流出に蓋をするのが先決です。

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士・行政書士 井上 修
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