所得税の確定申告も無事終わりました。1か月間という期間限定の税務申告ですので、会計事務所としてはかなりつらいものがあります。今年の確定申告を通して感じたのが、不動産の譲渡による申告が多かったことです。譲渡益が出ていた申告もありましたが、譲渡損の申告も数ありました。
今回は、譲渡損を含んだ損失と税金の関係について説明します。
不動産の譲渡損失が生じても原則として給与所得などの他の所得と損益通算をすることができないのですが、マイホームの譲渡損については例外があります。
まず、所有期間5年超のマイホームを譲渡して、床面積50平方メートル以上のマイホームを償還期間10年以上の住宅ローンで購入すると、譲渡損を給与所得などから控除することができ、控除しきれない損失は翌年以後3年間繰越して控除することができます。
次に、マイホームを譲渡して新居を購入しない場合でも、所有期間5年超で売却したマイホームに償還期間10年以上の住宅ローンの残高があって、売却額がローン残高を下回っていた場合は、譲渡損の損益通算及び繰越控除をすることができます。
個人が所有する自動車の譲渡損は、その車両がどのように使われていたかにより税金の適用が異なります。
まず、もっぱら趣味娯楽で使っている場合です。この場合は車両が「生活に通常必要でない資産」に該当し、譲渡損は他の総合課税の譲渡所得がある場合にはそれから控除できますが、給与所得などの他の所得とは損益通算できません。
次に、サラリーマンが車両を通勤で使っていた場合です。この場合、車両は「生活の用に供する資産」として扱われ、この譲渡による所得は非課税とされていますので、譲渡損についても元々なかったものとされて、他の所得と損益通算することはできません。
最後に、車両を個人事業で使っていた場合です。事業用車両の売却損は事業所得の損失ではなく、総合課税の譲渡所得に係る損失となります。総合課税の譲渡損は給与所得や事業所得などの他の所得と損益通算することができますので、結果として事業所得から控除することができます。
上場株式を売却して生じた譲渡損は、確定申告することによりその損失を翌年から3年間繰越して、翌年以降の株式売却益から控除することができます。また、上場株式から生じた配当からも控除できますので、配当も申告して配当から天引きされている所得税を取り戻すこともできます。
現在では、上場株式の譲渡損益と非上場株式の譲渡損益とは、同じ所得の中で合算されて税金は計算されます。
中小企業の経営者で、業績が好調なことから自社株の価値がかなり高くなっていて、売却すると税率は20%ですが、かなりの税額になるようなケースがよくあります。この経営者が多額の含み損のある上場株式を所有している場合、この上場株を売却して多額の譲渡損を計上し、同時に非上場の自社株を子供に売却して多額の譲渡益を出しても、上場株の譲渡損と自社株の譲渡益が相殺され、税金がセーブできることになります。
しかし、税制改正により平成28年1月1日以後の譲渡から、上場株式と非上場株式の所得区分が完全に分離され、両者での損益通算はできなくなります。
個人が所有するゴルフ会員権の譲渡損は給与所得などから控除することができますが、この制度も残り半月でシャットアウトされます。ゴルフ会員権やリゾート会員権を「生活に通常必要でない資産」に含むとする改正が、今年の4月1日以後の譲渡より適用され、譲渡損は他の所得と損益通算することができなくなります。
法人でゴルフ会員権を所有している場合にはゴルフ会員権を売却して譲渡損を計上しなくても、含み損を評価損として計上できるケースがあります。
ゴルフ会員権には預託金会員権と株式会員権の2種類がありますが、株式会員権の場合は、有価証券として評価損を計上することが可能です。そのためにはゴルフ場の決算書とゴルフ場が所有する不動産等の時価情報が必要です。それらを入手してゴルフ場の資産状態が会員権購入当時に比べて著しく悪化していて、有価証券としての価値が著しく低下していることを証明すれば評価損の計上をすることができます。
個人の事業所得などで損失が出た場合、その損失を翌年以降3年間繰越して、翌年以降の所得と相殺する制度が、損失の繰越控除です。
一方、その損失を翌年以降に繰り越すのではなく、前年に所得が出ていて納税している場合に、前年の所得と相殺して、前年に納税した税金を返してもらう制度があります。純損失の繰戻し還付という制度で、青色申告者に限って適用できる制度です。
法人においても同様に欠損金の繰戻し還付という制度があり、前年が黒字で納税していて、当年が赤字の場合、前年の黒字と当年の赤字を相殺することにより前年の法人税を還付してもらうことができます。ただし、資本金1億円以下の中小法人にだけ認められている制度です。
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