宝くじの当選金は非課税となっていますが、それ以外のギャンブルで稼いだ利益は課税の対象となります。
そもそも競馬で勝ち続けるなんてありえないと思っていましたが、ちゃんと通算して利益を出した会社員がいるということを新聞で知り驚きました。そして、国税当局が払戻金30億1千万円から当たり馬券の購入額1億3千万円を差し引いた28億8千万円に課税したことにも驚きです。
このレアな課税処分に対する判決が大阪地方裁判所で言い渡されました。
私もたまに東京競馬場に行くことがあります。ビールを片手に早朝の1レースの新馬戦から買い、競馬場で昼食のラーメンを食べて帰る程度です。
しかし、この会社員はこんなのんびりした馬券の買い方ではありません。過去のデータのない新馬戦や何が起こるか分からない障害レースを除く全てのレースを対象にします。馬券は自ら改良した市販の競馬予想ソフトが機械的に発注して購入し、1日に数百から千を超える買い目について馬券を購入したようです。この買い方で3年間で28億7千万円の馬券を購入したというのですから「すごい!」の一言です。
競馬場での馬券の買い方は今と昔ではまるっきり違います。私が若かった頃は、馬券売り場の窓口に女性がずらりといて、口頭で「2レースの2-3を200円ちょうだい」とか言って注文していたのですが、今は違います。電車のキップ自動販売機と同じ形の機械に予想したマークシートを入れて現金を投入すると、馬券が自動的に出てきます。また、当たり馬券も同様にこの機械に入れると、お金が自動的に銀行のキャッシュディスペンサーのように出てくるのです。
ですから、誰がいくら賭けて、いくら儲かったのかなど分かりっこありません。
馬券の購入は、競馬場や場外馬券売り場以外でもできるのです。JRAの A-PATを使えばインターネットで馬券の購入と払戻金の受け取りをすることができます。
会社員は、平成16年にPAT口座に100万円を入金して、その後は追加の入金は一切せずに資金を増やし続けていきました。そうすると今まで「いくら賭けて、いくら儲かった」という入出金の履歴が口座にすべて残ることになります。
税務署がA-PAT口座にある資金残高が多い人を洗い出したのかどうか分かりませんが、この会社員の入出金に注目して競馬による利益を捕捉したのでしょう。
国税当局が当初この会社員にした課税処分は、当たり馬券の払戻金30億1千万円から当たり馬券の購入額1億3千万円を差し引いた28億8千万円に対するものでした。所得税額で5億7千万円です。
一方、会社員は確かに当たり馬券で30億1千万円の払戻金を受け取ったのですが、当たり馬券以外に外れ馬券を27億4千万円購入しています。すると、この会社員の手元に残っている馬券購入の利益は1億4千万円に過ぎないことになるのです。そこに5億7千万円の税金を課税されては、とても税金を払うことはできません。いわゆる担税力がないのです。
このように担税力が誰が見てもないところに国が課税してくることに世間は驚いたでしょう。
所得税基本通達では、一時所得の例として「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」と記載されています。一時所得は、収入金額からその収入を得るために支出した金額と特別控除である50万円を控除した額の2分の1が所得とされます。
一時所得の計算で「収入金額」は競馬の払戻金30億1千万円で、これから控除する「その収入を得るために支出した金額」は、当たり馬券の購入額1億3千万円だけで、外れ馬券の購入額27億4千万円はそれに該当しないというのが国税の考え方となります。先例に従った型どおりの課税処分です。
一時所得とは、「営利を目的とする継続的行為から生ずる所得以外の所得で・・・」と規定されています。
会社員の馬券購入が営利を目的とした継続行為であれば一時所得には該当しないことになります。
この会社員がした馬券の購入方法は、自動売買ソフトで投資するFX(外国為替証拠金取引)の取引とほぼ類似のものといえます。FXの自動売買ソフトは、為替の変動に応じてソフトが自動で外貨の買いと売りを繰り返す仕組みです。
このFXの取引は一時所得ではなく雑所得として課税されます。
判決では、会社員の馬券購入は、大量かつ継続的、機械的なものであって、娯楽としてではなく、FXの取引のように利益を得るための資産運用の一種として行われたと認められる規模で、まさに、営利を目的とした継続的行為といえるとしました。
つまり一時所得ではなくFX取引と同様に雑所得であるとしたのです。
雑所得は、収入金額から必要経費を差し引いて計算されます。
会社員の馬券購入による収入金額は30億1千万円で、これから差し引く必要経費に外れ馬券が含まれるかが争点になります。判決では「外れ馬券を含めた全馬券の購入費用は、当たり馬券による払戻金を得るための投下資本にあたり、外れ馬券の購入費用と払戻金との間には費用収益の対応関係がある」として外れ馬券を含めた馬券購入費用28億7千万円を必要経費とし、所得税額は5千200万円とされました。
会社員の主張がほぼ認められる判決となりましたが、競馬での儲けを申告しなかったとして所得税法違反で執行猶予付きの有罪判決を言い渡されました。
しかし、同じことをA-PATではなくて、馬券売り場の窓口でやっていたら競馬の儲けは税務署にも捕捉されず、何事も起こらなかったというのが、何か公平感に欠けるような気がします。
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