社員の素行不良や会社の急激な業績悪化などの理由で、社員を解雇することがあります。しかし、労働法も裁判所も安易な解雇に対しては厳しい取扱いとなっています。ここでは、向井蘭著「社長は労働法をこう使え!」で紹介している会社にとって解雇の最悪のパターンを説明します。
解雇された社員がその処分に納得がいかない場合、解雇の無効を裁判所に訴えることになります。しかし、訴訟を始めて判決が出るまで1年ほどかかりますので、その間の生活費を確保するため、賃金仮払いの仮処分を申し立てます。
社員に資産がなく生活に困る状態であれば、申立から数ヶ月で仮処分命令が出されます。すると会社はその日から給料を支払わなくてはなりません。
月給30万円の社員を解雇したのが2011年の10月で、賃金仮払いの処分命令が3月に出て、本裁判を5月に提起して翌年の5月に判決が出たとします。
そうすると、会社は仮処分命令が出た今年の3月から判決が下りる翌年5月の15ヶ月分の給与を支払うことになります。30万円×15ヶ月の450万円の支払です。
翌年5月の判決で会社側が敗訴したとします。解雇は無効で、解雇された社員は労働者としての地位があったのに会社が働かせなかったとして、解雇を言い渡した前年10月以降の給料の支払を判決で会社に命じるのです。
すると会社は前年の10月から来年の5月までの20ヶ月分の給料を社員に支払うことになります。つまり、30万円×20ヶ月の600万円の給料の支払となります。
賃金仮払いの仮処分で支払った450万円と、解雇無効の判決で支払う600万円の給料とは、相殺して会社が残金の150万円だけを支払えばよいかと思います。
しかし、著者の経験した裁判例では賃金の仮払いをもって会社の社員に対する未払賃金の支払義務が消滅することはなく、未払いの450万円は別に支払い、その後に仮払い分は精算の対象になるに過ぎないとしています。
さらに高裁に控訴して半年かかって敗訴すると、会社が社員に支払う給料は30万円×6ヶ月×2の360万円になります。
これだけのお金を支払っても解雇は認められません。社員を復職させるわけにはいかず、どうしても辞めてもらいたい場合には、退職金を上積みしなくてはなりません。
給料の支払はここまでで1,410万円、これに上積みされた退職金を支払うとなると、中小企業では会社の存続にかかる資金負担となります。恐ろしい話です。
向井蘭著「社長は労働法をこう使え!」ダイヤモンド社
無断転用・転載を禁止します。