昨年末に発表された平成16年度の税制改正の内容で一番驚いたのが、個人の土地建物等の譲渡損失にかかる税金の扱いの改正です。
新聞紙上ではあまり大きく報道されませんでしたが、我々専門家の間ではビッグニュースなのです。
改正前、つまり昨年までにバブル期に購入した土地建物を、大きな損失を出して売却すると、別荘など生活に通常必要でないものでない限り、給与所得などの他の所得と相殺することができました(損益通算)。
更に所得税の青色申告をしていれば、譲渡損失があまりにも多額で、譲渡した年の給与所得などから相殺しきれない譲渡損失の額については、翌年から3年間にわたって繰越して、翌年以降の給与所得などと相殺することができました(損失の繰越控除)。
「特定の居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除制度」と今年から新しくできる「特定の居住用財産の譲渡損失の繰越控除制度」のいずれかに該当しなければ、損益通算や損失の繰越控除を受けることができません(青色申告をしていても)。
このふたつの制度は、所有期間が5年を超える居住用の不動産が対象であるため、これ以外の不動産を今年に売却して多額の譲渡損失を出しても一切税金が安くなることがなくなるのです。
居住用財産を譲渡したことにより生じた譲渡損失を、他の所得と相殺することができ(損益通算)、かつ、相殺しきれない譲渡損失については翌年から3年間にわたって繰越して他の所得と相殺控除することができる(損失の繰越控除)。
制度の内容は上記の「特定の居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除制度」と同じ「損益通算」と「損失の繰越控除」です。
しかし、この制度の場合には損益通算する損失の額、損失の繰越控除をする額に以下のような制限があります。
この制度では、譲渡した所有期間が5年を超える居住用資産に住宅ローンがついていることが要件になっています。そして譲渡損失が出て、他の所得と損益通算したり、翌年以降に損失の繰越控除をしたりすることができるのは、住宅ローンの残高金額より 売却金額 が少ない場合に限られます。
つまり、自宅を売却しても、その売却代金では住宅ローンの残高を返済できないケースに限られているのです。 そして、譲渡損失の内、住宅ローン残高 - 売却金額 の額だけが、損益通算ができ、余りあれば繰越控除をすることができるのです。
居住用資産で上記の2つの制度を利用できれば、不動産の含み損を他の所得と相殺することにより税金を安くすることができます。しかし、それ以外の含み損を抱えた不動産をもう売却しても節税メリットはシャットアウトされてしまいました。
例えば、個人で所有している含み損のある不動産を自分の会社に売却して、譲渡損を計上することにより、かなりの節税メリットがあったのですが、これも上記の2つの制度以外できなくなりました。
今年に含み損のある不動産を売却して、少しでも節税しようとしていた人にはあまりにも唐突な改正です。
かなり批判もあったためでしょうか、自民党税制調査会が党所属の国会議員に対して損益通算の廃止に理解を求める文書を配布したとの記事もあります(ニュースPRO)。その配布文書によれば、「損益通算を経過的に存続するということになれば、それまでの間にあえて損を出すための安値売りを誘発する可能性があり、土地市場をかく乱する恐れがある」として、唐突な損益通算の廃止に理解を求めているとのことです(ニュースPRO)
無断転用・転載を禁止します。