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納税義務

第263号 2016年04月

1.はじめに

税金は申告期限までに申告して、納期限までに納税しなければなりません。納期限までに納税しないと延滞税というペナルティーも付いてきます。

しかし、売掛金が回収不能になったり、事業者が病気になったりして、納税したくても納税できない事態に陥ることもあります。そして納税が滞って、税務署からの連絡を無視していると、預金口座や売掛金を差押えられるという最悪の事態になりかねません。今回は、そうならないための対処法を説明します。

2.最悪の事例

個人事業者のAさんは、業績不振による資金難のため、確定申告した所得税と消費税を納期限までに納税することができませんでした。

すると所得税と消費税の督促状が4月に税務署から送られてきました。督促状には「法律に基づいて延滞税がかかること、滞納処分に着手する」こと等が書いてありました。滞納処分とは、納税者が税金を任意に完納しない場合にとられる手続きで、差押え等により強制的に納税をさせる手続を言います。

Aさんは、この督促状をそのまま放置していたところ、6月以降何度か納税コールセンターから電話があり、電話を受けた従業員から伝言メモを渡されていたのですが、これも放置していました。

この間、納税催告書も何度か届きましたが、これも放置していると、督促状が届いてから半年経過後の10月に、税務署から徴収担当官が来ました。「本年4月の督促以降、再三の文書催告や電話にもかかわらず納税がなく、また納税の相談にも応じて頂けていません。10月末までに相談に応じていただけない場合は、納税の誠意がないと判断して、財産調査と差押処分に着手させていただきます」と伝えると同時に、税務署への来署指定日時を記載した不在連絡票をAさんがいませんでしたので奥さんに渡しました。

その日の夜、この話を奥さんから聞いたAさんは、「単なる脅しだよ」と取り合わず、10月末の来署指定日も無視しました。

3.大変なことに・・・

その年の11月下旬、Aさんの得意先であるK社から「税務署からあなたの滞納の件で取引代金の有無等についての照会文書が届いた」と連絡があり、「税金を滞納して売掛金を差押されそうな業者とは今後取引できません」を通告されました。

驚いたAさんは税務署の担当官宛に出向き、分割での納税の相談をしました。しかし、担当官から「納税の誠意が認められないので分納には応じられません。完納していただけなければ売掛金の差押処分を続行します」と申し渡されたのです。

12月にはいるとK社に対する売掛金の差押処分を実際に受け、K社との取引も停止されてしまいました。

4.どうすれば良かったのか

Aさんは、税務署からの接触をことごとく放置したことが問題でした。納税することが困難な状況であれば、税金の分割納税の相談に税務署まで足を運ぶことが必要です。つまり、納税したいのだけれどもすることができないので、分割での納税を税務署にお願いするという、納税の誠意が足りなかったのです。

5.税務署訪問時の対処法

納税の相談に税務署を訪問するときには以下のようなことに注意が必要です。

  1. 事前に経理担当者や税理士と十分相談して納税計画等の検討を行う。
  2. 税務署訪問時は税理士と一緒に行く
  3. なぜ滞納になったのかを説明できるように準備しておく
  4. 現時点でいくら納税できるかを算定して、まずそれを納税する。
  5. 残りの納税困難な金額について、今後の分納計画を具体的に説明する。その際、分納期間中に新たに発生する税金の納付計画を含めた対応を説明する。しかし、税務署の無理な分納計画には決して妥協しない。
  6. 分納計画の裏付けとなる収支状況等を持参して説明し、毎月の分納額が可能で精一杯な金額であることを説明する。
  7. 税務署では、聞かれなかったことまで言う必要はないが、生活や事業の現況、家族状況などを知ってもらった方がよいと思われることは、担当官に伝える。
  8. 分納に当たっては納税の誠意を強調し、単なる分納ではなく、延滞税の免除の効果が伴う納税の猶予(最長2年間納税が猶予される)などの措置を求める。
  9. 分納に際して担保提供を促されることが多いが、適当な財産がない場合や、滞納額が50万円以下の場合等は担保は必要でないことを知っておく。
  10. 災害・病気・盗難・貸倒れ等で納税困難になった場合は、納税の猶予の申請をする。
  11. 税務調査によって数年分の修正申告の提出を求められる場合に、納税の猶予の申請をするときは、修正申告の提出と同時か、それ以前に申請しなければならない。
  12. 休業状態で財産のない個人や法人、細々と事業を継続していて完納までに10年以上を要する財産のない個人や法人などは、滞納処分の停止(処分停止をした日の翌日から起算して3年を経過した時は、納税義務が消滅する)に該当することが考えられるので、検討する。

6.納税の猶予

納税者が災害等を受け、もしくは病気にかかり、又は事業の休廃止をした等によって、納税者が納付すべき税金を一時に納税することができないと認められる場合、1年の範囲内(延長制度あり、最長2年)で納税を猶予するという分納制度です。税務調査によって数年分の修正申告の提出を求められる場合にも適用できる納税猶予もあります。納税猶予の適用を受けると、猶予期間中の延滞税が全額または2分の1免除されます。

7.換価の猶予

税金を一時に納税することにより、事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められるなどの一定の要件に該当するときは、1年以内の期間に限り、税金を分割納税することができる制度です。

この制度の適用を受けると、猶予期間中の延滞税が2分の1免除されます。


「差押え 実践・滞納処分の対処法」東銀座出版社参照

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士・行政書士 井上 修
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