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社会保険料

第242号 2014年7月

1.はじめに

社会保険とは、一般的に健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の4制度を内容とします。健康保険は仕事以外での病気やけがの保険、厚生年金は老後の保障、雇用保険は育児休業中や失業した時等の給付、労災保険は仕事での病気やけがの保険です。

2.保険料の負担

平成26年7月時点で健康保険(介護保険を含む。協会けんぽ東京支部の場合。以下同様)11.69%、厚生年金17.12%を会社と従業員がそれぞれ負担します。雇用保険は一般事業所の場合1.35%で、従業員が0.5%、会社が0.85%負担します。労災保険は業種により異なりますが、会計事務所のようなサービス業では0.3%を会社が全額負担します。

3.負担が大変

会社が負担する保険料を合計すると健保5.845%(11.69%の半分)+厚生8.56%(17.12%の半分)+雇用0.85%+労災0.3%=15.555%になります。

年間の人件費が600万円で933,300円、600万円の従業員が10人いれば9,333,000円が会社負担となります。

負担はかなり大きいのです。

4.社会保険に加入しなくてもよい人

社会保険に加入しなくてもよい人を雇用すれば保険料を支払う必要はありません。パート労働者が思い浮かびますが、週40時間労働の場合はその4分の3である週30時間未満の労働であれば健康保険と厚生年金保険への加入が不要、週20時間未満の労働であれば雇用保険への加入も不要となります。

5.入社日と退職日

健康保険と厚生年金は、保険料が月単位でかかるため、入社日が月初めでも月末でもその月1か月分がかかります。

退職の場合は、退職した日の翌日が保険の喪失日となるため、月末に退職すると保険資格の喪失は翌月の1日となるので、退職月の保険料がかかることになります。会社のことだけを考えると入社は1日から、退職は月末日の前日がベストです。

6.有給休暇の買い取り

退職時に残っている有給休暇を会社が買い取る義務はありませんが、任意に買い取ることについては問題ありません。

7月31日に退職する従業員の有休が30日残っている場合、有休を消化すると9月11日が退職日となります。すると会社は8月分の社会保険料を負担しなくてはなりません。一方、退職日に有休をすべて買い取れば、社会保険料の負担は7月分まで、つまり1か月分の保険料を支払う必要がなくなります。

7.昇給時期を考える

給与額が変動すると健康保険と厚生年金保険の等級が見直されます。見直しには定時決定と随時改定があります。

定時決定とは、毎年4月、5月、6月に支払われた給与と交通費の平均で等級を見直し、9月分の保険料から適用するものです。

随時改定とは従前の等級と2等級以上の変動があった場合に、その都度保険料の見直しをするものです。

随時改定にかからない昇給であっても、4月に昇給すると4~6月の給与平均で見直す定時決定で適用される保険料が9月分から上昇することになります。

一方、7月に昇給する場合で随時改定に該当しない昇給であれば、来年の定時決定までまるまる1年間、現在の保険料が適用されることになり、保険料の額は変わりません。

8.4~6月の残業代を少なくする

定時決定における4~6月に支払われた給与には残業代も含まれます。したがって、その間の残業代が多いと9月分からの保険料が上がってしまいますので、その間は従業員にあまり残業をさせないことが得策かもしれません。

9.賞与にかかる保険料には上限がある

賞与にも健康保険(介護保険料含む。会社負担分)で5.845%、厚生年金で8.56%の保険料がかかりますが、いずれも上限額が定められています。健康保険は年間540万円、厚生年金は月間150万円です。

年2回100万円ずつの賞与を支給する場合、8.56%の厚生年金保険料(85,600円)が2度かかります。もし100万円を2回ではなく、200万円をまとめて1回で支給すれば、上限額150万円の8.56%だけの厚生年金保険料(128,400円)で済むことになります。

健康保険料は上限が年間で540万円ですので影響はありません。

10.給与にかかる保険料にも上限がある

毎月の給与にかかる保険料にも上限があります。健康保険料の上限は月額1,175,000円で、厚生年金保険料の上限は月額635,000円です。

月額635,000円以上の給与の場合、これとは別に賞与を支払っていると、その賞与には健康保険と厚生年金保険料がかかりますが、年間の賞与を12で割って毎月の給与に上乗せすれば、厚生年金保険料は追加でかかることはありません。

同様に、月額1,175,000円以上の給与の場合、年間賞与を12で割って毎月の給与に上乗せすれば、健康保険及び厚生年金保険の上限を超えるため、賞与で支払っていた健康保険及び厚生年金保険料の支払がなくなります。

11.給与で貰わない

役員であっても社会保険の扱いは従業員とほぼ同様ですが、ほぼ名前だけの非常勤役員については例外的に社会保険の加入義務がありません。

同族会社の役員であれば、ある程度自由度が高いので、会社から給与以外の方法で金銭を授受する方策も考えられます。

役員が個人で所有している不動産や車両を、会社の業務で使うために貸し付け、賃料を貰う一方で、その賃料分役員報酬を少なくすれば、社会保険料の額はその分少なくなります。

年金事務所が国税の納付情報を入手し、社会保険の未加入事業所の加入を促進させるといったことも報じられました。社会保険料の上昇は天井知らずで、これからますます注目されるのは必至といえます。

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士・行政書士 井上 修
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