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取引相場のない株式

第095_1号 2002年3月

1.はじめに

新聞に「プロ野球の福岡ダイエーホークス株式をオーナーが自分の息子に1株1円で売却した」との記事が載っていました。億単位の報酬をもらうプロ野球選手を擁する人気球団の株式を、たったの1円で買ってオーナーになれるなんて嘘みたいな話しですが、そのからくりを説明いたします。

2.株の売買価額と税金

株を個人間で売買するには、その株の時価でする必要があります。その理由を時価600円の株式の売買を例に説明します。

① AがBへ1,000円で売買する場合。
Bは時価600円でしかしない株を1,000円で買うわけですから、差額の400円はAへ金銭をあげた、即ち贈与したことになります。
② AがBへ100円で売買する場合。
Aは本来600円の株を100円で売るわけですから、時価との差額500円はAがBへあげた、即ち贈与したことになります。
このように、個人間での株の売買は時価による必要があるのです。

3.取引相場のない株式

福岡ダイエーホークスの株式は税法で「取引相場のない株式」に該当します。

証券取引所やジャスダック(店頭市場)に登録され誰でも買える株でない「取引相場のない株式」なのです。町の中小企業のオーナーが所有する自社株もこの「取引相場のない株式」になります。

上場株式と違い、市場の客観的な株価がないため税法でその株価(時価)算定法が決められています。

4.取引相場のない株式の時価

取引相場のない株式の時価の求め方は大きく3つに分れています。

①原則的評価方式
会社の純資産(資本金に設立以来の利益を足したもの)を発行済み株式数で割って1株あたりの純資産額を求めます。
②類似業種比準方式
上場されている同業種の上場会社の株価を参考にして株価を求める方式です。
③配当還元方式
会社の過去2事業年度の1株あたりの配当金額をもとに株価を求める方式です。

5.どの方式がどう違う?

①原則的評価方式
会社が含み益のある土地や有価証券を持っていると株価は高くなります。
反対に、会社が大赤字で資本金を超える累積の赤字がると株価はゼロになります。おそらく、福岡ダイエーホークスは大赤字で資本金を超える赤字の累積がある状態であったのでしょう。ですから、1円で売っても問題ないのです。
②類似業種比準方式
上場会社の株価を基準に株価が決まるため比較的高くなります。
③配当還元方式
過去2事業年度において、配当がなければ株価はゼロとなります。

いずれの方式が適用されるかは、株を買う人が身内か否か、もともとその会社の株式を持っているかなどによります。ちょっと複雑ですので専門家への相談が必要です。

アトラス総合事務所 公認会計士・税理士 井上 修
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